『冬の旅』、その名のとおりドイツ、オーストリア地方の厳冬が全編の「背景」になっている。そうしたなかで荒涼、孤独、哀切さなどの言葉が連想される。ドイツ語の歌詞を見ながら聴くと、さらに暗い縁取りがます。久々にじっくりと聴く。

第1曲「おやすみ」で全体のトーンが決まるが、深い哀惜が支配する。「風見の旗」は裏切り、「凍った涙」につづく「氷結」では固い樹氷を感じ、そして有名な「菩提樹」で一転、優しく美しき感興に心は動く。「雪解けの水流」「川の上で」の2曲では静かな川面に悲しさを思い、そして「回想」で失恋の深き痛みが回顧され、「鬼火」での焦燥に焼かれた心のあとに、しばし不安定ながらも「休息」が訪れる。
続く「春の夢」は魅力的な有名曲だが、ここに安寧はなくふたたび「孤独」が支配する。期待した「郵便馬車」は恋文を届けてはくれず、「白い頭」は霜が白髪を連想させ老いを象徴し、「烏」は不気味さと死の前触れ、「最後の希望」はシニカルな逆説にすぎず、「村にて」夜明けを迎えるが待つべき人はいない。
「嵐の朝」で激高するが、あとに残る心の残滓は「まぼろし」。死への「道しるべ」をへて、「宿屋」に辿りつくがそこは墓場だった。
「勇気」は、最後の勇気をふりしぼるのか、空虚な見せかけか。「三つの太陽」は、幻日と呼ばれる自然現象で太陽が３つに見えることを示すと言われるが幻視を象徴しているのだろう。そして終曲の「辻音楽師」。自らの成れの果てをここに見るのか、否、孤独ではない、唯一人かも知れないが、一緒に歌を奏でる人はいるのだという微かな希望か。後者だろう。

ディートリヒ・フィッシャー＝ディスカウは、本曲の第一人者。どこまでも落ちていく孤独と最後の曙光。これほど端正で見事な歌唱はないと思わせるような感動がある。バレンボイムも良い。ディスカウの芸術性に共感し出すぎぬ名脇役に徹している。

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tadj

録音もよし。名演！

2016年4月23日に日本でレビュー済み

フィッシャー・ディースカウの「冬の旅」は旧盤も名演だが、こちらのバレンボイムの伴奏は、ダイナミックで表情豊かな歌と見事に絡み合い、音質もいい。アナログ録音最後の頃だろうが、背景のアナログ特有のノイズ感もなく、すばらしい！ムーア伴奏の演奏も名演だが、やはり、これと比べれば相当古い音がする。

バレンボイムはピアノ・ソロ活動も指揮活動も多忙を極めるはずだが、２０１５年１１月８日にウィーンのムジークフェライン大ホールで、ワーグナー・ソプラノで今絶頂のニナ・ステメの伴奏をした。幸運にもチケットを入手したが、なんと舞台上の席、それも最前列１番と２番で家内と聞いた。バレンボイムの背中と楽譜がよく見える席だった。ブラームス、ワグナー、シベリウス、それにバレンボイムの師であるブーランジェを２４曲も演奏した。驚いたのはバレンボイムの楽譜にはどれも、一切、書きこみがなく、さっと、どれも完璧に描き分けた！！！ステメの楽譜にはマーカーの書き込みが見えた。ともかくも、ステメの声も圧倒的で、ピアノ伴奏がそれぞれの曲を見事に性格付けていた。ホールの素晴らしい音響も重なって、生涯忘れられない音楽会の一つとなった。帰国して思い出したのはこの演奏だ。バレンボイムの伴奏は、そういえば、昔、デュ・プレ達との室内楽もよかった。バレンボイムの無限のレパートリに驚嘆した一夜でもあった。なお、バレンボイムはこのところ、アルゲリッチとのピアノ・デュエットでも大人気だ。このチケットは簡単に入手できそうにない。。。

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シューベルト:歌曲集「冬の旅」

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